ホースの臭気が流体に移ってしまう!対応策は?

生産ラインや設備で使用されるホースにおいて、製品への臭い移りによる品質への影響、ホースの早期硬化に伴うひび割れや漏れの発生、あるいは交換頻度の高さに起因するライン停止や洗浄作業の煩雑さといった課題は、よくある問題です。
こうした問題の多くは、ホースの材質、特に柔軟性を保つために添加されている「可塑剤」の溶出による可能性があります。可塑剤の溶出は、単にホースの寿命を縮めるだけでなく、製品品質の低下や生産効率の悪化、衛生管理上のリスクといった、より深刻な問題へと発展しかねません。
本記事では、ホースからの可塑剤溶出がなぜ起こるのか、そしてそれが現場にどのような具体的なトラブルを引き起こすのかを解説します。さらに、これらの問題を根本から解決するためのホースの選定方法と、具体的な対策製品について詳しく紹介します。
- 1. なぜホースの臭気移りは解決が難しいのか?
- 1.1. 製品価値を損なう臭気コンタミネーションとは
- 1.2. 洗浄しても臭いが取れない根本的な原因は「材質」にある
- 1.3. 放置できない事業リスク:品質低下と顧客クレーム
- 2. 臭気移り対策でホースが満たすべき3つの条件
- 2.1. 条件1:流体への影響がない「低臭気性・低溶出性」
- 2.2. 条件2:安全性を証明する「食品衛生法適合」
- 2.3. 条件3:用途に応じた「耐薬品性・柔軟性」
- 3. 【八興】臭気移りを根本から解決する非塩ビホース
- 3.1. 高機能・高純度なら「柔軟フッ素ホースシリーズ」
- 3.2. コストと性能のバランスなら「KYシリーズ」
- 4. まとめ|臭気移り対策は「低臭気ホースの選定」がカギを握る
なぜホースの臭気移りは解決が難しいのか?

多くの製造現場で頭を悩ませるホースからの臭気移り。洗浄を繰り返しても再発するこの問題は、実はホースの表面的な汚れではなく、材質そのものに根差した根深い課題です。
ここでは、まず臭気移りが製品に与える具体的な影響(臭気コンタミネーション)を定義し、なぜ洗浄だけでは解決できないのか、その技術的な根本原因を解説します。
さらに、この問題を放置した場合に企業が直面する事業リスクについても掘り下げていきます。
製品価値を損なう臭気コンタミネーションとは
臭気コンタミネーションとは、製造設備や配管、包装材などから製品へ、本来含まれるべきでない臭い成分が移行し、製品の官能特性(味や香り)を変化させてしまう現象を指します。これは単に「不快な臭い」が問題なのではなく、製品が持つべき繊細な風味や香りのバランスを崩すこと自体が問題となります。
このように、臭気コンタミネーションは製品の安全性を直接脅かすものではないかもしれません。しかし、消費者が期待する味や香りを裏切ることで、製品価値そのものを毀損する、極めて深刻な品質不具合なのです。
洗浄しても臭いが取れない根本的な原因は「材質」にある
臭気移りの問題が発生した際、現場でまず試みられる対策は、洗浄(CIP)の頻度や強度を上げることです。しかし、多くの場合、この対策では問題を根本的に解決できません。なぜなら、臭いの発生源がホース表面の残留物ではなく、ホースの「材質」そのものに内在しているからです。
特に、柔軟性とコストパフォーマンスの観点から多くの現場で採用されている軟質塩化ビニル(PVC)製ホースは、この課題を抱えやすい構造にあります。
時間の経過や熱、特定の薬品や油との接触によって、可塑剤は徐々にホースの内部から表面へ、そして流体へと溶出(ブリードアウト)します。この溶出した可塑剤が揮発することで、いわゆる「ビニール臭」として感じられ、流体に移送されるのです。
つまり、問題の本質はホース表面の汚れではなく、ホースの体積全体から継続的に染み出してくる内部成分にあります。したがって、いくら表面を洗浄しても、内部からの溶出が続く限り、臭気移りを完全に断ち切ることは原理的に不可能なのです。
放置できない事業リスク:品質低下と顧客クレーム
ホースからの臭気移りを軽微な問題として放置することは、深刻な事業リスクに繋がります。ひとたび消費者の手元で異味・異臭が検知されれば、それは一件のクレームでは済みません。
まず、原因究明のための社内調査、対象ロットの特定、そして最悪の場合は製品回収といった一連の対応に、莫大なコストと人的リソースが割かれます。製品の廃棄は直接的な損失となるだけでなく、生産計画にも大きな影響を及ぼします。
さらに深刻なのは、ブランドイメージへのダメージです。味や香りを売り物にする製品にとって、官能品質のばらつきは顧客の信頼を著しく損ないます。一度失われた信頼を回復するのは容易ではありません。
臭気移り対策でホースが満たすべき3つの条件

臭気移りという根深い問題を恒久的に解決するためには、ホースの選定基準を根本から見直す必要があります。対症療法ではなく、原因を元から断つという観点から、ホースが満たすべき必須条件は3つに集約されます。
ここでは、流体への影響を最小限に抑える「低臭気性・低溶出性」、法規制を遵守し安全を担保する「食品衛生法適合」、そして実際の製造現場で求められる「耐薬品性・柔軟性」という3つの条件について、それぞれ具体的に解説します。
条件1:流体への影響がない「低臭気性・低溶出性」
最も重要な条件は、ホースの材質自体が流体に対して不活性であることです。つまり、ホースの構成成分が流体へ溶け出さない「低溶出性」を備えている必要があります。溶出する物質がなければ、それが原因となる臭気の発生もありません。「低溶出性」は「低臭気性」の根幹をなす特性です。
前述の通り、可塑剤などの添加物を含む材質は、溶出のリスクを抱えています。これに対し、ポリオレフィン系樹脂やフッ素樹脂のように、添加物を含まない、あるいは極めて少ない材質は、原理的に溶出が起こりにくく、流体の純度を高く維持することが可能です。
品質管理の理想は、問題を管理・抑制することではなく、問題が発生する余地を設計段階で排除することです。材質選定において「低溶出性」を最優先することは、まさにこの考え方を具現化するアプローチと言えます。
条件2:安全性を証明する「食品衛生法適合」
製品の安全性を担保することは、製造業における絶対的な責務であり、食品に接触するホースは日本の食品衛生法に適合している必要があります。
食品衛生法およびポジティブリスト制度の概要と、ホース選定における具体的な注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:まるっとわかる! 改正食品衛生法(ポジティブリスト制度)
このように、「食品衛生法適合」は最低限の前提条件と捉え、高品質な製品づくりを目指す上では、さらに「低溶出性・低臭気性」という性能基準をクリアする材質を選定することが必要です。
条件3:用途に応じた「耐薬品性・柔軟性」
最後に、製造現場での実用性も考慮しなければなりません。低溶出で法規制に適合していても、実際の使用環境に耐えられなければ意味がありません。
特に重要なのが、CIP/SIP工程で使用される洗浄剤や殺菌剤(酸、アルカリ、次亜塩素酸ナトリウム、蒸気など)に対する「耐薬品性」です。耐薬品性が低い材質は、洗浄工程で劣化・分解し、ホース自体の寿命を縮めるだけでなく、劣化した樹脂成分が新たな汚染源となって流体に混入するリスクを生み出します。
配管の取り回しや作業性を考慮した、自社の用途やプロセスに合わせて高いレベルで満たすホースを選定することが、臭気移り問題の根本解決に繋がります。
【八興】臭気移りを根本から解決する非塩ビホース
これまで述べてきた3つの条件を高次元で満たす解決策として、純度を求める用途向けの「柔軟フッ素ホースシリーズ」と、コストと性能のバランスに優れた「KYシリーズ」という、2つの具体的な解決策を詳しく解説します。
高機能・高純度なら「柔軟フッ素ホースシリーズ」
このシリーズは、臭気移りの根本原因である可塑剤を内層に含まない「可塑剤フリー」の設計です。これにより、溶出に起因する臭気の問題を原理的に解決します。
例えば、シリーズの中でも耐圧性に優れた補強糸入りタイプ「柔軟フッ素ホース(E-PDB)」は、内層に2フッ化系フッ素樹脂(PVDF)を採用しています。この材質は、優れた耐薬品性を発揮するだけでなく、ガスバリヤー性(気体を通しにくい性質)にも優れ、外部からの影響を防ぎ、流体の品質を高く維持します。
コストと性能のバランスなら「KYシリーズ」
「臭気の問題は解決したいが、フッ素ホースほどのオーバースペックは必要ない」あるいは「コストを抑えつつ、塩ビホースからの確実なアップグレードを図りたい」というお客様には、オレフィン系樹脂とスチレン系エラストマーを使用した「KYシリーズ」を提案します。
KYシリーズもまた、非塩ビ素材であり、可塑剤を使用していません。この一点だけでも、塩ビホースが抱える可塑剤由来の溶出・臭気移りの問題を根本的に解決できます。実際に、一般塩ビホースと比較して溶出物が極めて少ないことがデータで示されており、流体への影響を最小限に抑えることが可能です。
オレフィン系樹脂は、フッ素樹脂ほどの耐薬品性はありませんが、多くの食品・飲料・化粧品製造ラインで使用される洗浄剤に対して十分な耐性を持ち、柔軟性にも優れています。
まとめ|臭気移り対策は「低臭気ホースの選定」がカギを握る
解説してきたように、ホースからの臭気移りは、洗浄方法の工夫といった運用面の対策では解決が困難な、材質に起因する構造的な問題です。その根本原因は、特に軟質塩ビホースに含まれる可塑剤が、化学的に結合していないために流体へと溶出することにあります。
したがって、この問題を恒久的に解決する唯一の方法は、可塑剤を含まない「低溶出性・低臭気性」の材質で構成されたホースを選定することです。
その上で、食品衛生法(ポジティブリスト制度)への適合という安全性の担保、そして実際の使用環境に耐えうる耐薬品性や柔軟性を兼ね備えた製品を選ぶことが重要となります。
より詳細な製品情報や、お客様の具体的な用途に合わせた選定のご相談は、弊社ウェブサイトの「低臭気」対策ページをご覧ください。
低臭気ホース・臭気対策ホース




