油脂でホースが膨潤しべたついてしまう!対応方法は?

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製造現場や設計段階において、油脂を流すラインのホースが膨潤したり、表面がべたついてしまったりする問題は、多くの担当者が直面する共通の課題です。

この現象は、単なるホースの見た目の劣化に留まらず、継手からの漏洩による生産ラインの停止、交換頻度の増加に伴うメンテナンスコストの増大、さらには製品へのコンタミネーションリスクといった、より深刻なトラブルへと発展する可能性があります。

本記事では、油脂によるホースの膨潤やべたつきがなぜ起こるのか、そしてそれが現場にどのような具体的な問題を引き起こすのかを技術的な観点から解説します。その上で、これらの問題を根本から解決するためのホース選定のポイントを詳しく紹介します。

油脂によるホースの膨潤・べたつきが引き起こす3つの問題

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生産ラインや設備で使用されるホースの劣化は、単に見た目が悪くなるだけではありません。材質の膨潤や表面のべたつきは、生産ラインの安定稼働を脅かす深刻なトラブルへと発展する可能性があります。

ここでは、現場で起こりうる具体的な3つの問題点を解説します。

問題①:継手抜け・漏れによる突然の生産ライン停止

突発的に発生しうるのが、ホースの「継手抜け」です。ホースが油脂を吸収して膨潤すると、外径が変化し、ホースバンドや継手の保持力が著しく低下します。その結果、運転圧力に耐えきれなくなり、突然ホースが継手から抜け、内容物が噴出する事故につながる可能性があります。

この現象のメカニズムは、材質の化学的・物理的変化に起因します。例えばシリコーンゴムは、特有の網目構造を持っており、相性の良い液体(油脂など)に接触すると、液体分子が網目の中に侵入して構造を押し広げ、膨潤(膨張)を引き起こします。一方、軟質塩化ビニル(PVC)ホースの場合、柔軟性を与えるために添加されている「可塑剤」が、油脂によって溶け出す現象が発生します。

どちらのケースでも、ホースの寸法や硬度が設計時の値から逸脱するため、継手との締結が不完全になります。このような状態は、生産ラインの停止による機会損失や、漏洩した油脂の清掃・処理コストの発生に直結します。

また、床面に飛散した油脂はスリップ事故を誘発する可能性もあり、作業員の安全上の懸念にもつながります。

問題②:交換頻度の増加によるメンテナンスコストの増大

膨潤やべたつきが見られるホースは、前述の継手抜けリスクを回避するため、早期交換が必要となります。この交換作業が頻繁に発生することで、メンテナンスコストは増加の一途をたどります。

ここで重要なのが、「トータルコスト(TCO:TotalCostofOwnership)」の視点です。ホース本体の単価が安価であっても、交換頻度が高ければ、年間の総費用は高価な高性能ホースを上回るケースも少なくありません。

総費用には、ホースの購入費だけでなく、交換作業にかかる人件費、生産ラインを一時停止させることによる機会損失、そして交換用ホースの在庫管理費用まで含まれます。

問題③:製品へのコンタミネーション(異物混入)リスク

特に食品、化粧品、医薬品の製造ラインにおいて、ホースの劣化は製品の品質と安全性を直接脅かす「コンタミネーション(異物混入)」のリスクとなります。

軟質塩化ビニル(PVC)ホースから溶出した可塑剤が製品に混入するケースはその典型例です。日本の食品衛生法では、食品に接触する器具・容器包装からの溶出物について厳しい基準が定められており、基準値を超える物質の溶出は、製品回収や行政処分といった深刻な事態を招く可能性があります。

また、膨潤によって劣化したゴムやシリコーンの微細な破片が剥がれ落ち、製品に混入する物理的なリスクも存在します。

油脂ラインの安定稼働に不可欠なホースの3つの条件

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では、これらの深刻なトラブルを未然に防ぐためには、ホースにどのような性能が求められるのでしょうか。

ここでは、ホースの材質を選定するうえで、安定稼動の鍵となる3つの条件を技術的な観点から解説します。

条件①:流体を吸収しない優れた耐油性

本来の「耐油性」とは、単に油で溶けたり硬化したりしない、ということだけではありません。重要なのは、ホースの材質自体が油脂を吸収せず、また可塑剤などの成分が溶け出さないことです。

シリコーンホースは油脂を吸収して膨潤する性質があり、軟質塩化ビニル(PVC)ホースは可塑剤が油脂に溶出します。この可塑剤の溶出は、ホース表面に液体状で染み出し、べたつきを引き起こす「ブリードアウト」と呼ばれる現象の一因となります。

JISK6258(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム―耐液性の求め方)といった公的な規格では、液体に浸した後の体積変化率を測定することで、耐油性を評価します。

条件②:継手の抜けを防ぐ、形状の安定性

継手が抜けてしまう大きな原因は、ホースの形状が使用中に変化してしまうことにあります。

ホースが油を吸って膨潤すると、外径が太くなります。すると、ホースを固定している継手やバンドの締め付けが実質的に緩んでしまい、運転中の圧力に耐えきれず、ホースが抜けてしまうのです。

そのため、ホースには油を吸っても膨らんだり縮んだりしない、形状の安定性が求められます。これは、先の「耐油性」と深く関わっています。耐油性に優れたホースは、そもそも油を吸収しにくいため、長期間使っても新品の時と同じ寸法や硬さを保ちます。

これにより、継手の保持力が低下することなく、漏れや抜けといったトラブルを根本から防ぐことができるのです。

条件③:洗浄性を高め衛生度を保つ非粘着性

ホースの内面は、流体が残りにくく、洗浄しやすい「非粘着性」であることが求められます。特に粘度の高い油脂などを移送する場合、内面に残渣(ざんさ)が付着すると、製品のロスにつながるだけでなく、雑菌の繁殖源となり衛生管理上の問題となります。

PVCホースの可塑剤ブリードアウトによる表面のべたつきは、この非粘着性と対極にある状態です。べたつきは油脂や汚れを吸着し、CIP(定置洗浄)の効果を著しく低下させます。

優れた非粘着性は、衛生レベルの向上と洗浄作業の効率化につながります。

課題解決のポイントは内層フッ素樹脂~八興「柔軟フッ素ホースシリーズ~」

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これまで見てきた「耐油性」「安定性」「非粘着性」という3つの条件を高いレベルで満たす材質として「フッ素樹脂」があります。

このフッ素樹脂の優れた特性を活かしつつ、生産現場で求められる柔軟性を両立させたのが、内層にフッ素樹脂を用いた「柔軟フッ素ホースシリーズ」です。

以下では、フッ素ホースについてご紹介します。

優れた耐油性で膨潤・べたつきを根本から防ぐ

柔軟フッ素ホースシリーズの内層には、一般的に4フッ化系フッ素樹脂(ETFEなど)が採用されています。フッ素樹脂は、炭素(C)とフッ素(F)の結びつきが非常に強く、化学的にきわめて安定した物質です。そのため、油脂を含むほとんどの薬品や溶剤に対して侵されることがありません。

そもそも柔軟性を与えるための可塑剤を含んでいないため、PVCのような成分溶出によるべたつきや硬化は構造上、起こりません。また、分子構造が緻密で、シリコーンのように油脂を吸収して膨潤することもありません。比較試験では、柔軟フッ素ホースシリーズからは油脂の浸出が見られず、クリーンな状態を維持することが確認されています。

高い洗浄性でメンテナンスの工数を削減

フッ素樹脂の「くっつきにくい」という性質は、その「表面エネルギー」が極めて低いことに由来します。表面エネルギーが低いと、物質は他のものを引き寄せにくくなります。

そのため、水や油は表面で広がらず、水滴のように弾かれます。この撥水・撥油性により、ホース内面に流体が残りにくく、洗浄作業が極めて容易になります。これにより、洗浄時間の短縮と確実な衛生管理に貢献します。

低溶出・食品衛生法適合でコンタミ不安を解消

化学的に安定しているフッ素樹脂は、材質からの溶出物が非常に少ない「低溶出性」という特長も持っています。

八興の柔軟フッ素ホースシリーズは、日本の食品衛生法に適合し、より安全性の高い管理が求められるポジティブリスト制度にも対応しています(一部製品を除く)。製品選定の際には、各種適合証明書が用意されているかを確認することで、品質保証体制の構築に役立てることができます。

まとめ|ホースの膨潤・べたつきは交換でなく「材質変更」で根本解決を

油脂によるホースの膨潤やべたつき、それに伴う継手抜けやコンタミネーションといった一連の問題は、単なる偶然のトラブルではなく、使用しているホースの「材質」が原因で起こる技術的な課題です。

この問題の連鎖を断ち切るには、その場しのぎの「交換」ではなく、原因そのものを取り除く「材質変更」が有効な手段です。初期投資は既存のホースよりも高くなる可能性がありますが、交換頻度の劇的な低減、生産ラインの安定稼働、メンテナンス工数の削減、そして製品の安全確保といった長期的なメリットを考慮すれば、トータルコストを削減できる可能性があります。

工場でホースの膨潤・べたつきが常態化している場合、それは設備改善の機会と捉えることができます。材質という視点から現状の配管を見直すことで、根本的な問題解決につながります。

▼食品用ホース紹介ページ

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