インクジェットプリンター用チューブの選定方法

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産業用インクジェットプリンターにおいて、ヘッドの吐出不良やインクの酸化劣化といった印刷品質に関わる問題は、多くの設計・技術担当者が直面する恒常的な課題です。

これらの問題の多くは、プリントヘッドのメンテナンス不足やインク自体の品質に原因があると判断されがちです。しかし、根本的な原因がインクをヘッドまで搬送するチューブの性能不足にあることは少なくありません。

チューブは単なるインクの通り道ではなく、その材質や構造がインクの化学的・物理的安定性に直接影響を及ぼす構成部品です。

本記事では、インクジェットプリンターにおける印刷不良の根本原因をチューブの観点から解明し、装置の長期信頼性を確保するための体系的なチューブ選定手法を解説します。

チューブが引き起こすインクジェットプリンターの印刷不良

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メンテナンスを繰り返しても再発する印刷不良。その根本原因は、インク搬送用チューブの性能不足にある場合が少なくありません。プリンターに合ったチューブの選定こそが、印刷不良を防ぐ重要なポイントです。

以下では、気泡混入による吐出不良、ガス透過によるインク劣化、溶剤透過や摩耗が引き起こす二次的な不具合など、チューブに起因する代表的な問題点を具体的に解説します。

インクへの気泡混入によるヘッドの吐出不良

ヘッドの吐出不良、特に特定ノズルからインクが吐出されない「ノズル抜け」は、インク流路内に混入した微細な気泡が原因で発生することがあります 。この気泡の発生源の一つとして、チューブの壁面を透過してくる外気の存在が挙げられます。

一般的な樹脂チューブは、材質によって程度の差はありますが、気体を透過しやすい性質を持ちます。ガス透過性の高いチューブを使用した場合、大気中の酸素などがチューブ壁を通過してインク中に溶解します 。

この溶解した気体は、プリンター内部の圧力や温度の変化に伴い、インク中で再び気化して微細な気泡を形成します。この気泡がプリントヘッドのノズル内に滞留すると、インクの正常な吐出が妨げられ、印刷物にかすれやスジとして現れます。

ガス透過によるインクの酸化・劣化

チューブを透過した酸素は、気泡形成だけでなく、インクの化学的な劣化も引き起こします。溶解した酸素は酸化剤として作用し、インクに含まれる色素や顔料、樹脂成分などを徐々に酸化させます。

この酸化反応により、インクの色調が変化したり、粘度が上昇したりといった品質劣化が進行します 。特に長期間装置内に留まるインクの場合、この影響は顕著になります。

インクの品質劣化は、吐出不良やノズルの目詰まりといった物理的な問題に直結するだけでなく、印刷物の色再現性の低下といった品質問題にも繋がるため、チューブの酸素バリア性能は極めて重要です。

インクジェットプリンター用チューブ選定で考慮すべき4つの性能

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適切なインクチューブの選定は、単に内外径を合わせるだけでは不十分です。現代のインクジェットシステムが抱える化学的・機械的な課題に直接対応するためには、複数の異なる性能特性を厳密に評価する必要があります。

ここでは、インクの種類に適合する「耐薬品性」、インク品質を維持する「バリア性能」、そして装置の構造や稼働条件に対応する「機械的特性(柔軟性・耐キンク性)」という、チューブ選定に不可欠な性能要件を詳しく解説します。

使用インクに適合する「耐薬品性」

チューブ選定における最も基本的な要件は、使用するインクに対する耐薬品性です。インクは水性、溶剤系、UV硬化型など多岐にわたり、それぞれ化学的特性が大きく異なります 。

特にケトン類などを含む強力な溶剤インクは、多くの樹脂材料を膨潤、硬化、劣化させる可能性があります 。チューブの接液層(内層)の材質がインクに対して不適合な場合、チューブからの可塑剤や添加剤の溶出によるインク汚染や、チューブ自体の劣化による亀裂・破損に繋がります。

内層に4フッ化系フッ素樹脂(ETFE)などの耐薬品性に優れた材料を用いることで、多様なインクに対して安定した搬送が可能となります 。

インク品質を維持する「バリア性能(ガス・溶剤)」

バリア性能とは、気体や液体の蒸気がチューブ壁を透過するのを防ぐ能力を指し、前述の耐薬品性とは区別されるべき重要な特性です。チューブが化学的にインクに侵されなくても、ガスや溶剤の透過性が高ければ、インクの酸化や組成変化は防げないものです。

インクの化学的安定性を長期間維持するためには、酸素などのガス透過を抑制する「ガスバリア性」と、インク中の溶剤の揮発を防ぐ「溶剤バリア性」の両方が求められます 。

装置の小型化に対応する「機械的特性(柔軟性・耐キンク性)」

近年のプリンター装置の小型化と高機能化は、筐体内部の配管レイアウトをより複雑にしています。プリントヘッドのような可動部に配管されるチューブには、狭いスペースでの急な曲げや、繰り返しの屈曲に耐える高い柔軟性が要求されます。

柔軟性が不足している硬質なチューブは、曲げた際に折れて流路が閉塞する「キンク」を起こしやすく、インク供給が停止する原因となります 。

一方で、単に柔らかいだけのチューブも、自重や配管の取り回しによっては折れやすい場合があります。したがって、適度なコシを保ちながら小さな曲げ半径を実現できる、優れた耐キンク性が不可欠です。

【課題別】インクジェットプリンターの性能を高めるチューブの選び方

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ここではインクジェットプリンターの設計者やオペレーターが直面する最も一般的で重要な課題を解決するために設計された、具体的なチューブの選定指針を提示します。

ここでは、「インクの酸化・気泡混入」「溶剤の透過」「配管折れ」「UVインクの硬化」といった具体的な課題に対し、どのような特性を持つチューブが最適解となるのかを解説します。

インクの酸化・気泡混入を防ぐなら「オレフィンバリアチューブ E-BTO」

水性インクシステムでインクの酸化や気泡混入が懸案事項の場合、「オレフィンバリアチューブ E-BTO」が適しています。

特殊なバリア層により、汎用ポリエチレン(PE)チューブの2倍以上の酸素バリア性能を発揮します。外部からの酸素混入を効果的に抑制し、インクの酸化劣化や気泡の発生を防ぎ、印刷品質の長期安定化に貢献します 。

溶剤インクの透過(汗かき)を抑制する「フッ素バリアチューブ E-BTF」

溶剤インクの透過やチューブ外層の「汗かき現象」を抑制するには、「フッ素バリアチューブ E-BTF」が有効です。

内層に耐薬品性に優れた特殊フッ素樹脂、中間層に高性能バリア樹脂を配置した多層構造のチューブです。溶剤バリア試験において、市販のフッ素チューブ等に比べ溶剤透過を大幅に抑制することが確認されており、インク品質の維持と周辺部品への汚染リスクを低減します 。

狭いスペースでの配管折れを防ぐ「スーパー柔軟フッ素チューブ・ウルトラソフト E-SJUS」

複雑な配管や厳しい取り回しが要求される場合、「スーパー柔軟フッ素チューブ・ウルトラソフト E-SJUS」が最適です。

独自の積層構造により、フッ素チューブの優れた耐薬品性を維持しつつ、極めて高い柔軟性を実現。曲げ弾性値は従来品の約4分の1以下で、圧倒的に折れにくく(耐キンク性に優れる)、狭小スペースでもインクの安定供給を確保します 。

意図しない硬化リスクを低減「スーパー柔軟フッ素チューブ・ブラック E-SJ-BK」

UV硬化型インクの搬送では、外部の光による意図しない硬化がリスクとなります。この問題に対し、「スーパー柔軟フッ素チューブ・ブラック E-SJ-BK」は、優れた遮光性を持つ黒色の外層を採用。

紫外線を効果的に遮断し、搬送中のインク硬化を防ぎます。遮光テープを巻くといった手間が不要となり、信頼性の高いUVインク搬送システムを構築できます 。

まとめ|インクジェットプリンターのチューブ選定は、化学的・機械的特性の総合評価が重要

インクジェットプリンターの安定稼働と高品質な印刷を実現するには、チューブをシステムの性能を左右する部品として捉える設計思想が求められます。本記事で解説した通り、最適なチューブ選定は、耐薬品性やバリア性能といった化学的特性と、柔軟性や耐摩耗性といった機械的特性の双方を総合的に評価しておく必要があります。

安価な汎用チューブを選定した場合、目先の部品コストは抑えられても、結果としてプリンター全体の信頼性を損なう可能性があります。頻繁なクリーニングによるインクの浪費、予期せぬ印刷停止によるメンテナンス工数の増大は、最終的に顧客が負担する見えないコストとなり、装置そのものの評価を低下させかねません。

高性能な専用チューブを選定することは、装置の信頼性と生産効率を高め、長期的なトータルコストを削減するための重要な投資と言えます。次期モデルの設計や既存装置の信頼性向上に向けて、具体的な課題に合わせたチューブ選定のご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
プリンター用チューブ

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