医療機器の設計を変えるチューブ選定術|純度と柔軟性の両立

医療機器の設計・開発において、チューブの選定は装置全体の性能を左右する重要な要素のひとつです。
「耐薬品性を優先してフッ素チューブを選んだが、硬くて配管しづらく、キンク(折れ)で装置が止まってしまった」。
「柔軟性を重視した結果、チューブからの溶出物が分析データに影響を与えないか不安が残る」。
このようなジレンマに、設計担当者様なら一度は直面したことがあるのではないでしょうか。
部品の一つであるチューブを安易に選定してしまうと、装置の信頼性低下や、小型化を妨げる設計上の制約といった、深刻な問題を引き起こす可能性があります。
本記事では、医療機器の性能を落とす「キンク」と「溶出」という2大要因を深掘りし、これらの課題を根本から解決する最適なチューブを3製品、具体的な導入事例と共に詳しく解説します。
- 1. そのチューブ選定で大丈夫?医療機器の性能を落とす2大要因
- 2. 要因①:硬質チューブが引き起こす「キンク」と設計の制約
- 3. 要因②:材質からの「溶出物」による分析データ汚染リスク
- 4. 【課題解決】医療機器の性能を最大化する最適なチューブ3選
- 5. 従来のフッ素単層チューブより柔らかく折れにくい|スーパー柔軟フッ素チューブ【E-SJ】
- 6. 反発性を約4倍抑えた柔軟性抜群のチューブ|スーパー柔軟フッ素チューブ(ウルトラソフト)【E-SJUS】
- 7. 日本薬局方に適合した材料を使用|耐熱ソフトチューブ100℃【E-HRT】
- 8. 導入事例:分析装置の配管課題をどう乗り越えたか
- 9. 従来の課題:硬さと反発力が、現場の負担に
- 10. 改善と新たなニーズ:「もっと柔らかいチューブが欲しい」
- 11. まとめ|最適なチューブ選定で医療機器の価値を高める
そのチューブ選定で大丈夫?医療機器の性能を落とす2大要因

医療機器の性能は、使用される一つひとつの部品の品質に大きく左右されます。なかでもチューブは、装置内部で試薬や検体といった液体を正確に移送する重要な役割を担っており、その選定ミスが装置全体の信頼性や設計の自由度に深刻な影響を及ぼすことがあります。
ここでは、特に設計者が直面しがちな2つの大きな要因について解説します。
要因①:硬質チューブが引き起こす「キンク」と設計の制約
分析装置などでは、さまざまな薬品への耐性から、硬質なフッ素樹脂(PFA・PTFE)チューブが選ばれることが多くあります。しかし、このフッ素樹脂特有の「硬さ」が、しばしばトラブルの原因となります。最も代表的なトラブルが「キンク(折れ)」です。
キンクは、チューブを無理に曲げた際に発生し、液の流れを完全に止めてしまうことがあります。これにより、機器のアラーム作動や停止を引き起こし、安定的な稼働を妨げる大きな要因となります。
さらに、この硬さは「設計上の制約」にも繋がります。
硬いチューブは曲げ半径が大きいため、狭小なスペースでの配管が非常に困難です。結果として、チューブの取り回しのために部品の配置を妥協せざるを得ず、装置の小型化やコンパクトな設計を阻害してしまうのです。
要因②:材質からの「溶出物」による分析データ汚染リスク
チューブの材質から成分が溶け出す「溶出」も、医療機器において見過ごせない問題です。特に、柔軟性を出すために可塑剤が添加されているポリ塩化ビニル(PVC)製のチューブでは、この可塑剤(DEHPなど)が流体へ溶出するリスクが指摘されています。
血液分析装置などの精密な分析機器において、チューブからの溶出物は、試薬や検体を汚染し、分析結果の正確性を著しく損なう可能性があります。これは、装置の信頼性そのものを揺るがす致命的な問題です。
また、人体に直接作用する用途では、溶出した物質が患者の健康に影響を及ぼす懸念も指摘されており、厚生労働省も代替品の使用を推奨しています。
柔軟性を求めてしまうと、装置の性能と安全性の両面で大きなリスクを抱えることになりかねません。
【課題解決】医療機器の性能を最大化する最適なチューブ3選

前項で解説した「キンクによる設計の制約」と「溶出物による汚染リスク」は、チューブ選定における課題です。
これらの課題に対し有効な解決策の一つが、異なる特性を持つ樹脂を組み合わせた「積層構造」のチューブです。これは、耐薬品性に優れたフッ素樹脂を内層(接液部)に、柔軟性に優れた樹脂を外層に配置した構造を指します。
この構造により、フッ素樹脂が持つ高い耐薬品性を維持しながら、単層チューブの課題であった「硬さ」を改善し、柔軟性を両立させています。
以下では、この積層構造を持つチューブをはじめ、医療機器の設計者が抱える課題を解決するために特に最適な3つのチューブを厳選してご紹介します。
従来のフッ素単層チューブより柔らかく折れにくい|スーパー柔軟フッ素チューブ【E-SJ】
「耐薬品性は必須だが、従来のフッ素単層チューブの硬さや折れやすさを改善したい」という、最も基本的な課題を解決するのが「スーパー柔軟フッ素チューブ【E-SJ】」です。
内層に耐薬品性に優れたフッ素樹脂(ETFE)、外層にウレタン樹脂を採用した積層構造により、従来のフッ素単層チューブに比べて優れた柔軟性を実現。この構造が、キンク(折れ)の発生を抑制し、装置の安定稼働に貢献します。
また、取り回しが容易になることで、配管スペースの制約が緩和され、設計の自由度も向上します。
さらに、流体を汚染する原因となる可塑剤を含まない「低溶出性」と、内壁に液体が残りにくい「非粘着性」も備えているため、分析データの信頼性維持とサンプル間のコンタミネーション防止という、医療・分析機器に不可欠な要求性能を両立します。
反発性を約4倍抑えた柔軟性抜群のチューブ|スーパー柔軟フッ素チューブ(ウルトラソフト)【E-SJUS】
「装置の小型化で、より狭いスペースでの配管が必要」「可動部で使うため、とにかく柔軟性を最優先したい」といった、さらに高い柔軟性が求められる場面で真価を発揮するのがE-SJUSです。
最大の特徴は、標準タイプのE-SJよりも反発性(元の形に戻ろうとする力)を約4倍抑えている点です。反発力が非常に小さいため、曲げた状態を維持しやすく、狭小部での複雑な取り回しや、継手への接続といった配管作業性を劇的に改善します。
内層はE-SJと同じフッ素樹脂のため、高い耐薬品性に加え、分析精度に影響を与える物質の溶出が極めて少ない「低溶出性」といった特長はそのままに、シリーズ最高の柔軟性を実現しています。
日本薬局方に適合した材料を使用|耐熱ソフトチューブ100℃【E-HRT】
「より高い安全性が求められるため、公的な規格に適合したチューブを選びたい」というニーズに応えるのが、このE-HRTです。
このチューブは、日本薬局方に適合し、さらにFDA(米国食品医薬品局)の規格(21CFR)に収載された材料を使用しています。これにより、高い安全性が求められる医療用途でも安心してご使用いただけ、機器の薬事申請におけるエビデンスとしても活用が期待できます。
材質は非塩ビのスチレン系エラストマーで、抜群の柔軟性を誇り、作業性も良好です。また、滅菌処理(オートクレーブ、121℃×15分)後も著しい寸法変化がないことが確認されており、優れた耐熱性も備えています。
公的規格への適合を最優先事項とする場合には、耐熱ソフトチューブ100℃【E-HRT】は最適な選択肢だといえます。
導入事例:分析装置の配管課題をどう乗り越えたか

理論上は優れたチューブであっても、実際の医療現場で使用されなければ意味がありません。
以下では、医療機器の冷却水配管において、チューブの「硬さ」が現場の負担となっていた具体的な課題が、いかにして解決されたのかをご紹介します。
従来の課題:硬さと反発力が、現場の負担に
ある医療機器では、装置を冷却するための冷却水を通すチューブが使用されていました。冷却水がチューブを透過してしまうことを防ぐため、材質にはフッ素チューブが選定されていました。
しかし、従来のフッ素単層チューブは非常に硬く、その強い反発力が問題となっていました。特に、検査技師が装置を使用する際に、チューブの硬さが腕への負担となり、作業性を損なっていたのです。
しかし、柔軟な塩ビ(PVC)チューブは冷却水が透過してしまうため、使用できませんでした。
このケースでは「現場の負担」と「性能維持」という、二律背反の課題を抱えていたのです。
改善と新たなニーズ:「もっと柔らかいチューブが欲しい」
この課題を解決するために選ばれたのが「スーパー柔軟フッ素チューブ【E-SJ】」です。
E-SJは、内層に耐薬品性と非透過性に優れたフッ素樹脂、外層に柔軟なウレタン樹脂を採用した「積層構造」を持っています。この構造により、フッ素樹脂の優れた性能はそのままに、従来の単層チューブの課題であった硬さを克服し、優れた柔軟性を実現しています。
これにより、冷却水は透過させずに、検査技師の腕への負担となる強い反発力を抑制するという、まさに今回の課題解決に最適な選択肢となりました。
まとめ|最適なチューブ選定で医療機器の価値を高める
本記事では、従来のチューブ選定における「硬さによるキンクと設計の制約」、そして「材質からの溶出物による汚染リスク」という、設計者が直面しがちな二つの大きな課題を解説しました。
そして、これらの課題を解決する具体的な選択肢として、八興が提供する3つの高機能チューブをご紹介しました。
● 従来のフッ素単層チューブより柔らかく折れにくい【E-SJ】
● シリーズ最高の柔軟性で狭小部に対応【E-SJUS】
● 日本薬局方適合材料の使用で安全性を追求【E-HRT】
適切なチューブを選定することは、キンクによる装置の停止を防ぎ、柔軟性によって設計の自由度を高め、装置の小型化を可能にします。さらに、低溶出性に優れたチューブは、分析データの正確性を担保し、医療の安全性を高めることにも直結します。
もし今、お使いのチューブの硬さ、取り回し、あるいは材質の安全性に少しでも課題を感じているのであれば、ぜひ一度、貴社の装置に最適なチューブの選定を見直してみてはいかがでしょうか。
本記事でご紹介した製品の詳細な仕様や、サンプルのご依頼については、下記よりお問い合わせください。




