ホースが劣化する5つの原因とその対策方法

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製造装置の設計者や工場の設備保全担当者にとって、配管ホースの劣化は常に直面する課題の一つです。現場で発生する「硬化」「亀裂」「膨潤」「折れ」といった現象は、単なる部品交換の手間やコストの問題として片付けられがちです。

しかし、これらの劣化が引き起こす本当の影響は、より深刻な領域にあります。予期せぬ流体漏洩による安全リスク、突然のライン停止が招く生産機会の損失、あるいはホースから溶出した微細な物質や臭気が、最終製品の品質を汚染する品質不良。これらはすべて、企業の信頼性や収益性に直結する経営課題と言えます。

なぜ、ホースは劣化するのか。その根本的なメカニズムを理解しないまま、対症療法的に同じ材質のホースに交換し続けても、問題は再発します。

本記事では、ホース劣化の主要因を「化学的」「物理的」「熱的」「品質的」「環境的」の5つの側面に分類し、それぞれの技術的な根本原因を詳細に解説します。

その上で、ラインの安定稼働と長寿命化を実現するためにホースが備えるべき「3つの選定条件」を定義し、課題を解決するための具体的なソリューションを提示します。

ホース劣化がもたらす「5つの影響」と根本原因とは

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ここでは、ホース劣化の主要因を「化学的」「物理的」「熱的」「品質的」「環境的」の5つの側面に分類し、それぞれの技術的な根本原因について解説します。

原因1:薬品・溶剤による「化学的劣化」(膨潤・硬化・漏れ)

流体とホース材質の「化学的適合性(Chemical Compatibility)」が合わない場合に発生します 。不適合な流体に触れると、材質が膨らんだり(膨潤)、柔らかくなったりして機械的強度が低下します 。

特に軟質塩ビ(PVC)ホースでは、特定の薬品や溶剤 によって柔軟性を保つための「可塑剤」が溶け出し(溶出) 、結果としてホースが「硬化」し、最終的に亀裂や破損に至るケースが多くみられます 。

原因2:繰り返しの曲げ・振動による「物理的劣化」(亀裂・折れ)

装置の可動部などでの繰り返しの曲げや、ポンプの脈動(圧力変動)が原因で発生する「疲労破壊(Fatigue)」 が一つです。もう一つは、ホースを「最小曲げ半径」よりもきつく曲げることで発生する「折れ・つぶれ」です 。

折れは流路を閉塞させ、流量低下やポンプへの負荷増大を招きます。

原因3:高温・低温環境による「熱的劣化」(硬化・破損)

ホースの「使用温度範囲」を超える環境が原因です。高温環境下では、ホースの主材料である熱可塑性樹脂は、熱によって「軟化」する特性を示します。

一方、低温環境下では、材質が柔軟性を失い硬く脆くなる「脆化」が発生します 。特に、高温にさらされて劣化したホースは、耐寒性が低下(ガラス転移点が上昇)しているため、新品時には問題なかった温度でも低温脆化を起こしやすくなります。

原因4:ホースからの溶出・臭気による「流体品質の劣化」(汚染)

これは、ホースが物理的に破損(漏れ・割れ)しなくても、ホースの材質そのものから成分が流体に溶け出したり(溶出)、臭いが移ったり(臭気移り)することで、流体、ひいては最終製品の品質を汚染してしまう問題です。

ホース自体が「汚染源」となるケースです。例えば、食品や化粧品分野ではホースの材質固有の臭いが製品に移る「臭気移り」や、汎用ホースに含まれる可塑剤が溶出する問題が品質を損ねることがあります。

また、半導体製造の超純水ラインや高感度な分析機器では、ホースから溶出する微量な有機物(TOC)や不純物が、製品歩留まりの低下や分析データの信頼性が低下します。

原因5:紫外線・オゾンなど環境要因による「経年劣化」(変色・硬化)

ホースが設置された外部環境が原因となる劣化です。代表的なものに、太陽光や工場内の殺菌灯に含まれる「紫外線(UV)」による光酸化劣化があります。紫外線はポリマーの分子鎖を切断するエネルギーを持ち、空気中の酸素と反応して連鎖的に劣化が進行し、ホースは変色、硬化、そして脆化していきます 。

また、「オゾン」による劣化もあります。オゾンは特定のゴム材質と反応して深い亀裂(オゾンクラック)を発生させます 。特に近年は、殺菌用途でオゾン水を使用するラインでのトラブルも増加しています。

オゾンによる劣化メカニズムや、オゾン水洗浄ラインでの具体的な対策については、下記の記事でより詳細に解説しています。

<関連記事> オゾン洗浄水がフッ素チューブを劣化させる課題と対策

ホースの長寿命化と安定稼働を実現する「3つの選定条件」

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ここではトラブルを回避し、装置の安定稼働と長寿命化を実現するためには、ホース選定時に確認すべき3つのポイントについて解説します。

条件1:流体と使用温度に適合した「耐性」

これは、原因1「化学的劣化」と原因3「熱的劣化」を防ぐための、最も基本的かつ重要な選定条件です。

具体的には、使用する流体(薬品、溶剤、ガス、食品など)に対し、ホースの内層材質が膨潤、硬化、溶解などの化学的変化を起こさない「耐薬品性」を有することが大前提となります。

さらに、流体自体の温度、およびホースが設置される周囲環境の温度(夏場の最高温度、冬場の最低温度)が、ホースの「使用温度範囲」内に収まっていることを確認する必要があります。この際、耐薬品性のデータは、温度や濃度によって大きく変化するという点に注意が必要です 。必ず「実使用条件」(温度、濃度、圧力)での耐性を評価することが不可欠です。

条件2:設置箇所や取り回しに適した「柔軟性」

これは、原因2「物理的劣化」を防ぐための、機械的な特性に関する条件です。

装置内の狭いスペースへの配管や、可動部への取り付けでは、ホースが折れないことが重要です 。製品スペックに記載されている「許容曲げ半径」(最小曲げ半径) を確認し、実際の配管経路がそれよりも緩やかなカーブを描いているかを設計・施工段階で確認する必要があります。

また、ロボットアームの先端やスライドテーブルなど、高速・高頻度で曲げが繰り返される箇所では、その動きに長期的に追従できる柔軟性と耐久性、すなわち「耐疲労性」 が求められます。

条件3:流体品質を維持する「低溶出」

これは、原因4「流体汚染」を防ぐための、材質に関する条件です。

この条件は、従来の「ホースが流体に耐える」という発想とは逆に、「ホースが流体を汚染しない」ことを要求するものです。特に高純度プロセスや、人の口・肌に触れる製品の製造ラインでは不可欠な要件となります。

この純粋性を担保するため、選定するホースが、その用途に求められる公的規格や業界基準に適合しているかを確認する必要があります。

まとめ|ホース劣化は「原因の特定」と「最適な材質選定」が対策のポイント

本記事では、ホース劣化の5つの根本原因(化学的、物理的、熱的、品質的、環境的)と、それらを防ぐための3つの選定条件(耐性、柔軟性、低溶出)について解説しました。

ホース選定において最も重要なことは、目に見えている現象(「割れた」「漏れた」「汚れた」)だけで判断せず、真の原因を特定することです。

例えば、ホースが「硬化して割れた」場合、その根本原因が「流体による可塑剤の溶出」なのか、「高温による熱酸化」なのか、あるいは「紫外線による光酸化」なのかによって、打つべき対策(選定すべき材質)は全く異なります。

「適材適所」の原則に基づき、現場で起きている現象と、流体、温度、動作、環境、そして法規制といった全ての要求事項を正確に診断し、最適な材質・構造のホースを選定すること。

それこそが、生産ラインの安定稼働と製品品質の維持、そして現場の安全確保を実現する唯一のポイントとなります。

これらの要求事項を満たす具体的なホース選定については、以下のページもご参照ください。

▼KYシリーズ(製品詳細)

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