医薬品の製造工程で洗浄用の溶剤を流しても劣化しにくく溶出の少ないホースは?

医薬品の製造現場では、製品の品質と安全性を確保するため、使用するホースの選定が極めて重要です。特に、製造ラインの洗浄工程では、ホースが薬液に直接触れるため、細心の注意が求められます。
しかし、実際の製造現場では、使用するホースにより、次のような課題が発生することがあります。
● 洗浄溶剤によるホースの早期劣化と、それに伴う交換コストの増加
● ホースからの溶出による製品汚染(コンタミネーション)とGMP不適合のリスク
これらの課題は、製品の品質低下や安定供給を阻害する可能性があります。多くの工場で利用されてきた塩化ビニル(塩ビ)ホースですが、GMP(Good Manufacturing Practice)<医薬品の製造管理及び品質管理の基準>などの対応を求められる製薬業界ではさまざまな課題を抱えています。
本記事では、まず塩ビホースが製薬用途で推奨されない理由を解説します。その上で、ホースに求められる性能要件を整理し、それらの課題を解決する選択肢として「柔軟フッ素ホース」を詳しくご紹介します。
- 1. 塩ビホースが製薬用途で採用されにくい3つの理由
- 1.1. 可塑剤の溶出によるコンタミネーションリスク
- 1.2. 高温洗浄に対する耐久性の低さ
- 1.3. 洗浄バリデーションの難しさと頻繁な交換対応
- 2. GMP対応でホースに求められる3つの性能
- 2.1. 劣化防止|長期使用に耐える材質設計
- 2.2. 溶出低減|製品と反応しない非溶出構造
- 2.3. 耐薬品性|洗浄溶剤や原料への耐性が必要
- 3. 製薬製造のラインでおすすめのホース3選
- 3.1. スーパー柔軟フッ素ホース【E-SJB】
- 3.2. スーパー柔軟フッ素スプリング【E-SJSP】
- 3.3. スーパー柔軟フッ素チューブ(ウルトラソフト)【E-SJUS】
- 4. まとめ|製薬製造では品質と安全性の確保ができるホース選定を
塩ビホースが製薬用途で採用されにくい3つの理由

汎用的な塩ビホースは、品質保証が最優先される製薬工程、特にGMP環境下では、その材質特性に起因するリスクから採用が限定的です。
ここでは、その具体的な3つの理由を解説します。
可塑剤の溶出によるコンタミネーションリスク
塩ビホースには、柔軟性を与える目的で可塑剤(フタル酸エステル類など)が添加されています。この可塑剤は、アルコール系有機溶剤などに接触するとホースから溶出し、内容液を汚染する可能性があるものです。
溶出した成分は製品の有効成分と反応したり、予期せぬ不純物として作用したりするリスクがあります。これにより、製品の有効性や安全性が損なわれるだけでなく、製造プロセスにおける逸脱処理や、最悪の場合は製品回収に繋がる重大な品質問題を引き起こします。
高温洗浄に対する耐久性の低さ
製薬工場のラインでは、熱水やスチームを用いた高温洗浄が行われることがあります。しかし、一般的な塩ビホースの耐熱温度は70℃程度と低く、高温で軟化・変形しやすい弱点があります。
特に、熱による劣化はホース材質の柔軟性を失わせ、硬化を招きます。硬化したホースは、わずかな曲げ伸ばしでも微細な亀裂(マイクロクラック)が入りやすく、その破片が微粒子として流体中に混入する原因となります。
可塑剤の溶出とは別の物理的な異物混入リスクであり、注射剤などの製品においては致命的な品質異常となります。
洗浄バリデーションの難しさと頻繁な交換対応
GMPでは交叉汚染を防ぐため、洗浄方法が適切であると検証する「洗浄バリデーション」が義務付けられています。
塩ビホースは表面が柔らかいため傷がつきやすく、その微細な傷の中に薬液の残留物や微生物が定着し、バイオフィルムを形成する温床となり得ます。一度形成されたバイオフィルムは通常の洗浄では除去が難しく、洗浄効果の検証において、常に交叉汚染のリスクが付きまといます。
このリスクを管理するためには、ホースを予防的に頻繁に交換するしかなくなり、コストだけでなく、品質保証部門の管理工数も増大させます。
GMP対応でホースに求められる3つの性能

GMPの厳格な基準を満たすホースには、以下で取り上げているような性能が要求されます。
コンタミネーションを低減し、安定した製造環境を維持するために必要不可欠な3つの性能要件を解説します。
劣化防止|長期使用に耐える材質設計
製薬工場のホースは、洗浄溶剤や圧力、温度変化など、過酷な条件下で使用されます。そのため、物性が変化しにくい優れた「耐久性」が求められます。これには、化学的な耐性だけでなく、繰り返しの曲げ伸ばしや圧力変動、クランプによる締め付けといった物理的なストレスに対する強さも含まれます。
材質の物理的特性が長期間にわたって安定していることは、一度検証されたプロセスの状態を維持するうえで不可欠です。ホースの材質が劣化して硬化やひび割れを起こすと、その破片がパーティクルとして製品に混入するリスクを生み出します。
溶出低減|製品と反応しない非溶出構造
ホースの材質自体が内容液と反応し、成分が溶け出すことは絶対に避けなければなりません。特に、可塑剤などの添加物を含まない「低溶出性」は、医薬品の品質を保つうえで極めて重要な性能です。
この性能を客観的に評価するため、米国薬局方(USP)や日本薬局方(JP)などの公定書では、プラスチック製器具に関する生物学的反応性試験や物理化学的試験法が定められています。
これらの規格に適合するためにも、ホース起因の溶出がないことを確認しておかなければ、試験に合格しない可能性もあります。
耐薬品性|洗浄溶剤や原料への耐性が必要
製薬工場では、多種多様な洗浄剤や殺菌剤が用いられます。これら全ての化学薬品に長期間耐える「耐薬品性」は必須の条件です。
これには、エタノールやIPAのようなアルコール系溶剤だけでなく、水酸化ナトリウムなどの強アルカリ、リン酸などの酸、次亜塩素酸ナトリウムといった酸化剤など、製造・洗浄工程で使用されるあらゆる化学薬品が含まれます。
一部の薬品にのみ耐性があるだけでは不十分であり、使用される全ての流体に対して材質が不活性であることが、流路の清浄度と完全性(インテグリティ)を保証します。
製薬製造のラインでおすすめのホース3選

塩ビホースが持つ課題を解決し、GMPが要求する性能を満たす選択肢として、柔軟フッ素ホースが挙げられます。
ここでは、耐薬品性・低溶出性に優れ、かつ柔軟で扱いやすい製品を3種類ご紹介します。
スーパー柔軟フッ素ホース【E-SJB】
内層のフッ素樹脂が各種洗剤成分に対して優れた耐性を発揮。ポリエステル系補強糸を編み込んだ構造により、高圧での洗剤圧送時も安定した性能を維持します。
透明性が高いため、洗浄後の残留確認も容易で、コンタミネーション防止にも効果的です。
スーパー柔軟フッ素スプリング【E-SJSP】
ステンレス製スプリングコイル内蔵により、濃厚な洗剤原料の吸引時も形状を保持。フッ素樹脂の優れた耐薬品性により、強アルカリ性洗剤や溶剤系洗浄剤にも長期間耐えることができます。
圧送・吸引の兼用ができるため、工程の効率化にも貢献します。
スーパー柔軟フッ素チューブ(ウルトラソフト)【E-SJUS】
特殊な積層構造により、可塑剤を使用せずに柔軟性を実現。これにより、洗剤への可塑剤溶出リスクをゼロにし、製品品質を守ります。
界面活性剤や香料成分に対しても優れた耐性を示し、長期使用でも劣化しにくい設計です。
まとめ|製薬製造では品質と安全性の確保ができるホース選定を
本記事では、製薬工場の製造工程、特に洗浄用溶剤を使用するラインにおいて、ホース選定がいかに重要であるかを解説しました。
汎用的な塩ビホースは、可塑剤の溶出によるコンタミネーションリスクや、薬品による劣化といった課題を抱えており、GMPが求める厳しい品質基準を満たすうえでは最適とはいえません。
医薬品の品質と安全性を確実に担保するためには、ホースの選定において、以下の3つの性能が不可欠です。
● 長期使用に耐える耐久性
● 製品に影響しない低溶出性
● 多様な洗浄溶剤に対応する耐薬品性
柔軟フッ素ホースは、これらの要求性能を高いレベルで満たし、柔軟性も兼ね備えることで現場の作業性向上に貢献します。ホースの劣化やコンタミネーションのリスクを低減し、交換頻度を抑えることは、製造コストの削減だけでなく、製品の安定供給と品質保証体制の強化に繋がります。
▼薬品・溶剤用ホースの技術資料・仕様確認はこちら
https://eightron.tokyo/chemicals/