ホースから可塑剤が溶出してしまうときの対処方法

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生産ラインや設備で使用されるホースにおいて、製品への臭い移りによる品質への影響、ホースの早期硬化に伴うひび割れや漏れの発生、あるいは交換頻度の高さに起因するライン停止や洗浄作業の煩雑さといった課題は、現場における共通の懸念事項です。

こうした問題の多くは、ホースの材質、特に柔軟性を保つために添加されている「可塑剤」の溶出による可能性があります。可塑剤の溶出は、単にホースの寿命を縮めるだけでなく、製品品質の低下や生産効率の悪化、衛生管理上のリスクといった、より深刻な問題へと発展しかねません。

本記事では、ホースからの可塑剤溶出がなぜ起こるのか、そしてそれが現場にどのような具体的なトラブルを引き起こすのかを解説します。

さらに、これらの問題を根本から解決するためのホースの選定方法と、具体的な対策製品について詳しく紹介します。

可塑剤の溶出が引き起こす2つの問題とは

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可塑剤の溶出は、単なるホースの劣化に留まらず、現場にさまざまな問題を引き起こします。

ここでは、そのなかでも特に影響の大きい「品質」「生産性」「衛生管理」の3つの視点から、具体的なトラブルを解説します。

トラブル1:製品への臭い移りと風味の変化による品質劣化

食品、飲料、化粧品、香料などを製造するラインにおいて、製品の風味や香りはその価値を左右する重要なポイントです。

一般的に広く使用されている軟質塩化ビニル(塩ビ)製のホースには、柔軟性を与えるために「可塑剤」という添加物が含まれています。この可塑剤は、ホースの樹脂と化学的に結合しているわけではないため、時間の経過や流体の種類(特に油やアルコール)、温度などの影響で徐々に流体中へ溶け出してしまうのです。

溶出した可塑剤は、製品に異臭や異味を与える「臭い移り」の原因となります。これにより、製品本来の繊細な風味が損なわれ、官能評価で規格外と判定されれば、製品ロット全体の廃棄につながる可能性も否定できません。

これは直接的な損失であると同時に、品質管理上の大きな課題となります。

トラブル2:ホースの硬化・劣化が招く、突然のライン停止と交換コスト

可塑剤は、ホースに柔軟性をもたらす重要な役割を担っています。しかし、その可塑剤が溶出によって失われると、ホースは本来の硬い状態に戻ろうとします。その結果、ホースは弾力性を失い、徐々に硬化していきます。

硬化したホースは、生産ラインの振動や圧力変動、屈曲といった日常的な負荷に耐えられなくなり、ひび割れや亀裂が生じやすくなります。この亀裂が原因で流体が漏洩すれば、生産ラインを停止せざるを得ません。

突然のライン停止は、生産計画に大幅な遅延をもたらすだけでなく、漏洩した製品のロス、清掃作業、そして緊急のホース交換作業にかかる人件費など、多岐にわたるコストを発生させます。

交換頻度が高く、生産停止リスクが高い場合、その運用コストは決して低いとはいえません。

可塑剤溶出問題の根本解決に不可欠なホースの選定条件

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可塑剤溶出は品質、生産性、衛生管理に連鎖的な悪影響を及ぼします。この問題を根本から断ち切るためには、対症療法的なメンテナンスに頼るのではなく、原因そのものを断ち切るためにも、適切なホースを選定する必要があります。

以下では、ホースの選定条件として抑えておきたい3つの条件について解説します。

条件1:接液する内層に可塑剤を一切含まない材質であること

可塑剤溶出のリスクを回避する確実な方法の一つは、使用条件に適した材質のホースを選定することです。

塩化ビニル樹脂は、加工前は硬質のプラスチックですが、可塑剤を添加することで柔軟性を得て、幅広い用途で使用されています。しかし、この「添加物によって柔軟性を得る」という構造は、流体や温度などの使用条件によっては、可塑剤が溶出する可能性があります。

そのため、溶出が懸念される用途においては、そもそも可塑剤を含有しない材質で構成されたホースの選定が、確実な対策となります。

これに対し、ポリオレフィン系樹脂やフッ素樹脂といった「非塩ビ」材質は、それ自体は可塑剤を一切含まない硬質な樹脂です。製品としての柔軟性は、これらの樹脂を内層に、より柔軟な樹脂(ポリウレタンやスチレン系エラストマー)を外層に配置するなどの積層構造によって実現されています。

可塑剤を添加して柔軟性を得る塩化ビニル樹脂とは根本的に異なるため、これらの材質を接液内層に採用したホースは、原理的に可塑剤の溶出リスクがなく、流体の純度を長期にわたって維持することが可能です。

条件2:客観的なデータで「低溶出」が証明されていること

「低溶出」や「食品対応」といった言葉だけでなく、その性能が信頼できる第三者機関の試験によって客観的に証明されているかを確認することが重要です。

特に、食品に接触する器具や容器包装については、食品衛生法で詳細な規格基準が定められており、その溶出試験に適合していることが安全性の証明となります。

注意すべきは、試験に用いられる溶媒です。水だけでの試験では、実際の使用環境を反映しているとはいえません。例えば、油脂や脂肪分を多く含む食品を扱う場合は、油脂への溶出試験データが不可欠です。

同様に、アルコール飲料や殺菌用アルコールを流す場合は、エタノールを用いた試験結果を確認する必要があります。自社の使用条件に合致した試験データに基づき、ホースの適合性を判断することが、リスク管理の基本です。

条件3:流体による劣化(膨潤)がなく、長期間性能を維持できること

ホースの性能を長期的に維持するためには、可塑剤の溶出だけでなく、流体そのものによる材質の化学的劣化にも注意を払う必要があります。

特に問題となるのが「膨潤」と呼ばれる現象です。これは、ホースの材質が特定の液体(特に有機溶剤や油など)を吸収し、分子の隙間に液体が入り込むことで体積が増加する現象です。

膨潤したホースは、強度が著しく低下し、軟化や変形を引き起こします。これにより、耐圧性能が損なわれたり、継手部分からの抜けや漏れが発生しやすくなったりと、新たなトラブルの原因となります。

したがって、ホースを選定する際には、流体の純度を汚染しない「低溶出性」と同時に、流体によって性能が損なわれない「耐薬品性」や「耐油性」を、メーカーが提供する技術資料などで確認することが不可欠です。

データが示す解決策|八興の低溶出・非塩ビホース

前章で提示した2つの選定条件、「可塑剤フリーの材質」「客観的なデータ」「長期的な耐久性」を満たす解決策として、八興の非塩ビホースを紹介します。

食品・飲料用途に最適:KYサンフーズ【E-KYS】

KYサンフーズ【E-KYS】は、食品・飲料、化粧品といった高い安全性が求められる用途のために開発された、非塩ビ・可塑剤フリーの圧送用ホースです。

条件1(材質)
接液する内層には、可塑剤を含まないポリオレフィン系樹脂を採用しています。これにより、臭い移りや製品汚染のリスクを根本から排除します。

条件2(耐久性)
内層のオレフィン系樹脂は優れた耐薬品性を有しており、アルコールや香料、酸・アルカリ性の洗浄剤など、幅広い流体に対して安定した性能を維持します。

これらの特長から、KYサンフーズは、従来の塩ビホースでは可塑剤の溶出が懸念された用途においても、安心して使用できる選択肢となります。

油脂や薬品にも対応:スーパー柔軟フッ素ホース【E-SJB】 

スーパー柔軟フッ素ホース【E-SJB】 は、有機溶剤や高純度薬品など、より厳しい条件に対応するために設計された高性能ホースです。

条件1(材質)
接液部には、化学的に安定したフッ素樹脂(ETFE系)を採用しています。

条件2(耐久性)
ほとんどの薬品、溶剤、油、燃料に対して優れた耐性を発揮します。膨潤による劣化の心配が少なく、厳しい環境下でも長期間にわたり初期性能を維持できるため、メンテナンス頻度の削減とラインの安定稼働を実現します。

スーパー柔軟フッ素ホースは、特に生産技術部門や設備保全部門において、難易度の高い流体移送の課題を解決する信頼性の高いホースといえます。

まとめ|「材質」と「データ」でホースを選び、現場のトラブルを未然に防ぐ

ホースからの可塑剤溶出は、単なる部品の劣化問題ではありません。それは製品の品質低下、予期せぬ生産停止、そして衛生管理の手間という、相互に関連した現場のトラブルを引き起こします。これらのリスクを回避し、安定した生産体制を構築するためには、初期導入コストだけでなく、長期的な信頼性と安全性を重視したホース選定が重要です。

そのための判断基準は、「用途や流体の特性に応じて、可塑剤を含まない材質を選択肢に入れること」、そして「使用条件に合致した客観的な溶出試験データによって安全性が裏付けられていること」です。

材質の特性を理解し、データに基づいて適切なホースを選定することは、現場の潜在的なトラブルを未然に防ぎ、生産性の向上と製品品質の安定化に直接貢献する、重要な判断といえるでしょう。

ホース選定に関するより詳細な情報やご相談については、以下のページをご参照ください。
低溶出ホース・低溶出チューブ

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