燃料電池製造で失敗しない! 薬品搬送ホースの選び方と材質のポイント

燃料電池製造装置に携わる開発・設計担当者にとって、薬品搬送用ホースの選定は、生産の安定性を左右する重要な判断ポイントです。
薬品の特性に合わない材質・構造を使用すると、薬品漏れやホース劣化が発生し、製造ラインの停止や納期遅延、さらには顧客からの信頼失墜といったリスクにつながりかねません。
本記事では、燃料電池製造工程における薬品搬送ホースの選定ポイントを、技術的根拠に基づいて整理し、具体的な製品例とあわせてご紹介します。
設計初期段階での材料選定や工程検討の参考として、ぜひご活用ください。
製造工程で薬品搬送ホースに求められる条件とは?

燃料電池の製造工程では、多様な薬品が使われるため、それぞれの薬品特性に応じたホース選定が欠かせません。
以下では、実際に使われている薬品の種類と、そのリスク要因を明らかにするとともに、不適切なホース使用によるトラブル事例を通じて、適切なホース選定の重要性を解説します。
燃料電池製造で使用される薬品の種類とリスク
燃料電池の製造工程では、触媒分散や電極洗浄などの各プロセスに応じて、複数の有機溶媒が使われます。
これらの薬品は極性の高さや毒性、引火性などにおいて特性が大きく異なるため、それぞれに適したホース材質を選ばなければ、劣化・膨潤・漏れなどのトラブルを招くおそれがあります。
以下では、代表的な薬品を「リスク分類の軸」に沿って整理し、選定時に注意すべきポイントを表にまとめました。
分類軸 | 該当薬品 | 内容・リスクの概要 |
極性の強さ | NMP、DMF、DMSO | 浸透性が高く、ホースの膨潤や劣化を引き起こす可能性あり |
引火性 | エタノール、トルエン | 静電気による引火リスクがあり、防爆対策が必要 |
毒性・皮膚吸収性 | GBL、DMSO | 皮膚からの吸収で健康リスクが高く、安全対策が重要 |
環境負荷 | トルエン、クロロベンゼン | 排気・廃液処理が必要。法規制の対象となることも |
このように、薬品のリスクは化学的性質の違いにとどまらず、安全性や設備信頼性にも関わります。そのため、薬品に直接触れるホースの材質選びが特に重要です。
柔らかいホース材は扱いやすい反面、極性の強い溶媒では劣化しやすく、漏れや破損の原因になります。
強度と耐薬品性の両方を備えた材質の選定が、安定稼働とトラブル防止に直結します。
不適切なホース使用によるトラブル事例
薬品の性質に合わないホースを使用していたことで、思わぬトラブルにつながった事例は少なくありません。
たとえば、ある半導体素材メーカーでは、基板洗浄装置にアセトンを使用しており、従来は市販のフッ素系フレキホースを使用していました。しかし、洗浄装置のロボット的な動きにより繰り返しの曲げ応力が加わり、わずか2週間でホースが劣化・破損する状況に。
そのたびにホースと継手の交換が必要となり、コスト増と作業負担が大きな課題となっていました。
この問題に対しては、耐薬品性・柔軟性・低溶出性・耐屈曲性を兼ね備えた専用ホースと継手のセット導入により、以下のような効果が得られました。
● 交換頻度の大幅削減
● 作業性と安全性の向上
● トータルコストの抑制
このように、単にホースを「つなぐ」だけでなく、使用環境や薬品に適した材質を選定することが、設備の安定稼働と安全性の確保につながります。
ホースに求められる性能と課題

薬品の特性や搬送環境に応じて、ホースにはさまざまな性能が求められます。しかし、すべての薬品に適合するホースを選ぼうとすると、コストや施工性に支障をきたす場合もあります。
そのため、現場の運用や薬品特性を正しく把握したうえで、どの性能を優先し、どこにリスクを許容するかという視点が選定には欠かせません。
以下では、薬品との相性に関わる「耐薬品性」と、長期使用や事故リスクに関係する「耐久性・安全性」の観点から、ホース選定時に押さえておきたい課題について解説します。
耐薬品性の重要性
よく使われているホース材のひとつに、PVC(塩ビ)がありますが、一部の薬品に対しては分解や硬化を起こしやすく注意が必要です。
その点、フッ素樹脂やナイロン系のホースは、より広い範囲の薬品に対して安定して使用できます。一方で、柔軟性に優れたウレタンホースは、極性の高い溶媒に触れると膨潤を起こしやすいなど、使用環境によっては適さないこともあります。
こうした材質ごとの特性を理解したうえで、設計初期に適切なホースを選んでおくことが、使用中の劣化や液漏れといったトラブルの防止につながります。
耐久性と安全性の確保
薬品搬送に使うホースは、使用中のトラブルを防ぐうえでも、十分な耐久性と安全性が求められます。劣化や破損によって薬品が漏れたり、圧送中にトラブルが発生すると、生産停止や薬液の飛散といった重大なトラブルにつながりかねません。
特に、腐食性や毒性の強い薬品を扱う燃料電池製造現場では、ホースに生じたわずかなひび割れや硬化が、大きな事故を招くこともあります。そのため、薬品への耐性だけでなく、長期間の使用に耐える構造的な強度や柔軟性も考慮して材質を選ぶことが大切です。
また、継手との接続部や加圧環境での膨張耐性といった部分も、安全な運用を支えるポイントです。
初期段階での材質選定に加え、定期的な点検や交換時期の見直しもセットで行うことで、設備の安定稼働と作業者の安全を両立できます。
各ホースの特性と選定ポイント

薬品搬送に使われるホースは、材質によって耐薬品性や柔軟性、耐久性に大きな違いがあります。
どの材質が自社の使用薬品と相性が良いのか、作業性やコストとのバランスをどう考えるかが、選定における重要なポイントです。
以下では、燃料電池製造現場でも使われる代表的なホース材について、それぞれの特性と選定時の注意点を比較しながら解説します。
フッ素樹脂ホースの特性
フッ素樹脂ホースは、NMPやDMF、DMSO、トルエンといった強溶剤に対して優れた耐薬品性を持ち、薬液搬送を安定して行えるのが特長です。
加えて、耐熱性に優れており、広い温度領域でも安定した性能を維持します。高温下でも変形や劣化が起きにくいため、温度変化の大きい環境や熱流体の搬送における長期的な運用に最適です。
また表面は、粘着物や異物が付着しにくく、撥水性も高いため、ホース内部の洗浄が容易です。さらに、ガスバリア性が高く、内部の気体や液体の透過を抑えることで、周囲の影響を受けずに性能を維持できます。
フッ素樹脂ホースはこれらの特性から、化学プラントでの薬液配管や電子部品製造現場、医療分野での高純度薬液搬送など、幅広い分野で活躍されています。
その他のホースの特性と注意点
フッ素樹脂ホースに比べると、ナイロンホースや軟質塩ビホースは柔軟性や加工性に優れ、コスト面でも導入しやすいという利点があることから、空気・水・油などの一般用途で広く使用されています。
しかし、燃料電池の製造工程のように、強溶剤を取り扱う環境では注意が必要です。
ナイロンはある程度の耐溶剤性を持つものの、NMPやDMFといった極性の高い溶剤に長期間さらされると劣化しやすくなります。また、軟質塩ビホースは多用途に対応できる反面、強溶剤に対する耐性は限定的であり、膨潤や変質のリスクがあります。
燃料電池製造のように化学薬品による劣化リスクが高い工程では、ホースの材質が薬品と適合しているかを慎重に見極めることが、作業の安全性や設備の信頼性を保つうえで欠かせません。
まとめ|製造現場で活躍する耐薬ホースとは?
薬品搬送ラインにおいて、ホースの材質や構造の選定は、漏れ・膨潤・硬化といったトラブルを防ぎ、安全性や生産効率を維持するうえで非常に重要です。特に燃料電池製造などの繊細な工程では、薬品との相性を見極めたホース選定が欠かせません。
本記事では、耐薬ホースの選定において押さえておきたいポイントや、代表的な製品例を紹介しました。設計初期段階でこれらの視点を取り入れることで、長期的なトラブル回避や安定稼働につながります。
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